OKALLRIGHTいい恋をしよう!
なんとか仕事を終えて家路につく。
今日はちゃんと2時半に帰れた。
班長も、よしよしと言った顔でおいらを見てたから、
ちょっとホッとした。
アパートの階段に足を掛けると、昨日の翔さんのことを思い出す。
昨日は一緒に上ったんだよな。
すっごい音させて、びっくりしたよな、きっと。
たった一日。
なのに、こんなに考えちゃうのはなぜなんだろう?
翔さん、男にも女にもモテそう。
おいらをその友達の一人にしてって言うのもちょっと図しいかな。
もう、会えないんだから、それもお願いできないんだけど。
考えれば考えるほど、気持ちが沈んでいく。
昨日がきっと楽しかったんだよね。
久しぶりに一人じゃなくて、しかも、あんなにキレイな人で。
おいらは音をさせないよう、ゆっくりと階段を上る。
重い足取りは、誰もいない部屋に帰るせい。
翔さんにもう会えないからじゃない。
はぁなんか、おいら翔さんに恋してるみたいだ。
あ、しまった。
鍵。
おいらはゆっくり戻り、ポストを確認する。
鍵は入ってない?
ポストの隅から隅まで確認する。
ない。
翔さんが間違えたのかと思って、他の部屋のポストも見てみる。
でも、鍵は見つからない。
まさかポストに入れるの忘れて、持って帰っちゃった?
それは困る。
あんな狭い部屋だけど、おいらがいられるのはあそこだけなんだから!
でも、もしかして。
逸る気持ちを抑えて、階段をゆっくり上る。
音が響く階段がもどかしく、それでも階段を上りきると、
一目散に自分の部屋のドアに手を掛ける。
ノブが回る。
部屋が開く。
え?
開いたドアの中に、背中を丸めてコタツに入った白いシャツが見える。
ドアが開いたことに気付いて振り返った顔は、まさしく寝ぼけ眼の翔さんで。
翔さん?なんで。
びっくりしてるおいらを他所に、翔さんが勢いよく立ち上がって、玄関にやってくる。
え?あれ?
翔さんが大きく息を吸う。
3億円なんて、どこにもなかったぞ!
アパート中に響き渡るような声で、翔さんはそう言って、頬を膨らませる。
え?
智君があんなこと言うから探したんだよ。この部屋。
この部屋?
屋根裏から、畳の下まで!!
ええーーーっ?
何にも見つからなくって。そうしたら、文句言うまで帰れなかった!
帰れなかったって。
翔さんはふくれっ面のまま、腕を組んでおいらを見てる。
それが、可愛くって、おかしくって、だんだん笑いが込み上げてくる。
あはあははは翔さんってば!
おいらの笑い声が響いたのか、隣のドアが開く。
うるせぇぞ!何時だと思ってるんだ!
怒鳴られて、小さな声で謝って、部屋の中に入る。
ドアをしっかりしめて、声を押し殺しながら笑った。
すると、釣られたように翔さんも笑い出して。
二人でコタツの中に入って、コタツ布団を被って笑った。
まさかんふふふ、翔さんが信じるとは思わなかった!
ば信じたわけじゃないよ。あんなことする人には見えなかったし。
じゃあ、なんで?
それは。
翔さんが、ちょっと言いよどんで、コタツから顔を出して、おいらを見て言う。
これで終わりにしたくなかったって言うか。
照れたように視線を外す翔さんを見て、嬉しくなる。
おいらも!おいらもいてくれたらいいなぁと思ってた。
智君。
翔さんも、嬉しそうに笑う。
と、友達の一人にしてください!
おいらは翔さんの前に手を差し出す。
友達?
うん、ダメ?
ダメだね。
嘘ついたから?
謝れば許してくれるなら、いくらでも謝るよ。
だから、翔さん!
違うよたぶん、友達じゃないから。
え?
翔さんの手が、おいらの頬を包む。
たぶん恋だと思うんだ。
恋?
まさかの言葉にびっくりして、それ以上何も言えなくなる。
言えなかったけど、近づいてくる翔さんの顔を、避けることもできなくて。
そして気づいた。
おいらのもきっと恋だって。
男同士だけどこれは恋!
ね本当に探したの?
探したよ畳剥がして、押し入れの天井開けて。
うっそ。
翔さんの手がおいらの髪を梳く。
もし本当にお金があったらどうしたの?
お金があったら?
うん。
おいらの指が翔さんの指と絡まる。
その金持って、二人で逃避行!
まじ?
まじ。
翔さんがクスクス笑う。
なんにしてもきっと帰って来るまで待ってたよ。
翔さんのつま先が、コタツの中でおいらのつま先にくっつく。
だからいい恋をしよう。
翔さんの唇がおいらの頬を掠め、おいらの唇も、翔さんの頬を掠める。
翔さんのシャツ買ってこなきゃダメかも。
頭の片隅でそんなことを思いながら、翔さんの唇に唇を合わせた。
これが、おいら達の恋の始まり。
んふふ。いい恋だと思う!